研究
胎児のNUDT15遺伝子型によって、母親が服薬するチオプリンが胎生致死を引き起こす可能性をマウスモデルで解明
滋賀医科大学医学部内科学講座(消化器?血液内科)の安藤朗教授、河原真大講師らの研究グループは、東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 角田洋一助教との共同研究の結果、母親が服用するチオプリンが、胎児のNUDT15遺伝子型によっては胎生致死を引き起こす可能性があることを、マウスモデルを用いて解明しました。
チオプリンは、免疫調節薬として炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)やリウマチ性疾患(全身性血管炎や全身性エリテマトーデスなど)に広く使用されます。副作用として白血球減少があることが知られており、この副作用にNUDT15遺伝子の遺伝子多型が関与することが最近わかってきました。
NUDT15はチオプリンの代謝酵素です。これまでの研究で、139番目のアミノ酸が変化する遺伝子多型(NUDT15 R139C)があると酵素活性が低下して、チオプリンによる造血幹細胞障害および白血球減少が引き起こされることが報告されています。また、日本人の5人に1人がこの遺伝子多型を有していることもわかっています。
炎症性腸疾患やリウマチ性疾患は若年者や中年者を中心に発症し、しばしば妊娠中の疾患コントロールとしてチオプリンが使用されます。なお妊娠中のチオプリン服用は禁忌とされていません。上述の通り、チオプリン毒性とNUDT15遺伝子多型の関連性が明らかになってきましたが、NUDT15遺伝子多型の観点からみた妊娠中のチオプリン服用の胎児に対する安全性については不明です。
そこで今回の研究では、本研究グループが開発した世界で唯一のNUDT15 R139Cを模倣したマウス(Nudt15 R138Cノックインマウス)を用いて、その安全性を検討しました。その結果、母マウスがNudt15 R138Cヘテロ型で胎仔マウスがNudt15 R138Cホモ型、もしくは母マウスが野生型で胎仔マウスがNudt15 R138Cヘテロ型の場合、母マウスへの治療量のチオプリンを投与することによって胎仔マウスが生まれてこなくなり、死亡する可能性が示唆されました。一方で、母マウスと胎仔マウスのNUDT15遺伝子型が同一の場合は、母マウスへの治療量のチオプリンを投与しても問題なく胎仔マウスが生まれてくることから、影響をうける可能性は低いと考えられました。
マウスでの研究結果がそのままヒトに当てはまるわけではありませんが、今回の研究結果は、胎児のNUDT15遺伝子型を推定することで、妊娠中のチオプリン服用による胎児の安全性をより高める重要な知見になりうると考えられます。胎児のNUDT15遺伝子型の決定には、父親の遺伝子型が関与します。例えば、両親とも正常型であれば胎児も正常型です。この場合は安全にチオプリンを服用できるのではないかと考えられます。しかし両親ともヘテロ型の場合、25%の確率で胎児はホモ型になるので、この場合はチオプリン以外の薬を選択する方が良いかもしれません。現在、ヒトでも同様のことが起きていないかを確認する臨床研究が同じ研究グループの中で進められており、その結果を含めて、より安全に妊娠中にチオプリンによる治療ができるようにしていきたいと考えています。
この成果は、「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology誌」に2021年3月22日(日本は3月23日)掲載されました。
【問い合わせ先】
●研究に関すること
東北大学大学院医学系研究科 消化器病態学分野
助教 角田 洋一
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