研究
世界初のアルツハイマー型認知症に対する超音波治療の医師主導治験 -安全性を確認し本格治験へ-
東北大学大学院 医学系研究科 循環器内科学分野の下川 宏明教授(当院循環器内科科長)、進藤 智彦助教、江口 久美子医師、東北大学加齢医学研究所 老年医学分野 荒井啓行教授らの研究グループは、低出力パルス波超音波(low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS)*2がマウスのアルツハイマー型認知症モデルにおいて認知機能低下を抑制する可能性があることを見出し、2018年6月より、世界で初めての医師主導治験を開始しています。
アルツハイマー型認知症*1は代表的な認知症の一つであり、いくつかの症状改善薬が開発された現在でもその根本的な解決策となる治療法が確立されていません。認知症に対する治療法の開発は、超高齢社会の進展に伴う認知症患者の急激な増加と相まって、毎年、世界中で1000万人の新規患者が発症しているとされ、大変深刻な課題となっています。そのような中、新世代の低侵襲性治療とされるLIPUS治療が、認知症に対する新たな治療手段として研究が始まっています。
下川教授らの研究グループは、以前より虚血性心疾患に対するLIPUS治療の有効性と安全性を動物実験レベルで報告してきました。この低出力パルス波超音波を全脳に照射すると、認知機能低下が抑制される可能性があることを2種類の認知症モデルマウスにおいて確認しました。アルツハイマー型認知症の動物モデルでは、アミロイドβの蓄積を著明に減少させました。この治療法は、物理刺激を用いた革新的なアプローチであり、薬物では通過しにくい血液脳関門*3の影響を全く受けることがないなどの有利な特徴を有しています。
この研究結果に基づき、下川教授らのグループは、2018年6月から実際にアルツハイマー型認知症の患者さんを対象にLIPUS治療の有効性と安全性を評価する世界初の探索的医師主導治験を開始しました。今回、治験の第一段階である安全性評価を主軸に置いた5名の患者さんを対象としたRoll-in群の観察期間が終了し、3月11日に開催された効果安全評価委員会でその安全性が確認されました。これを受けて、2019年4月から、有効性の評価を主軸に置いた40名の患者さんを対象としたRCT群の治験治療を開始することになりました。
本治験は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの指導を受けて行われ、また国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の革新的医療シーズ実用化研究事業において課題名「認知症に対する経頭蓋超音波治療装置の開発」の支援を受けて実施されています。
*1.アルツハイマー型認知症:
アルツハイマー病を原因とする認知症の一つ。アミロイドβの蓄積による老人斑と、タウ蛋白のリン酸化による神経原線維変化を二大病理とする進行性の神経変性疾患である。全ての認知症の中で半数以上の割合を占める。
*2.低出力パルス波超音波:
人間の可聴域を超える周波数(20kHz以上)を持った音波は超音波と呼ばれ、媒質を振動して伝導する縦波(疎密波)から構成される。パルス波は、連続的に音波を発信し続ける連続波とは対照的に、断続的に音波を発信する照射方法であり、生体内の機械的振動によって生じる熱の発生を抑えられるため、連続波よりも高い強度での照射が可能になる。
*3.血液脳関門:
血液と脳組織の間にあり、両者の物質交換を制御する機構のことを指す。これにより血中の不要な物質は容易に脳組織へは浸透できないようになっている。しかし、アルツハイマー病をはじめとする頭蓋内病変の治療においては、この血液脳関門の存在により治療薬が組織まで到達しにくいという問題もある。
【お問い合わせ先】
(研究?治験に関すること)
東北大学大学院医学系研究科循環器内科
教授 下川 宏明(しもかわ ひろあき)
電話番号:022-717-7152
Eメール:shimo*cardio.med.tohoku.ac.jp
(報道に関すること)
東北大学病院広報室
電話番号:022-717-7149
Eメール:pr*hosp.tohoku.ac.jp
※*を@に変えてください。
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