生物学的な性と、自認する心理的?社会的な性が一致しない状態、すなわち、生物学的には完全に男女どちらかの性に属し、ご本人もそのことを認知していながら、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態の人が一定数いることが知られています。このような状態はその人に臨床的に強い苦痛を感じさせ、また、社会生活の重要な機能に障害を引き起こすことから「性同一性障害（gender identity disorder：GID）」という診断名で定義されてきました。しかし、近年、このような状態は疾患というより特性の多様性（ダイバーシティ）と捉えられるようになり、「性別違和」、あるいは「性別不合」という名称で定義されるようになっています。性別不合が生じる原因については、胎児期の生物学的な要因も指摘されていますが現在のところ不明です。

平成10年、埼玉医科大学において、本邦で初めて公に性別不合の治療として形成外科手術により自認する性別に身体を適合する性別適合手術が施行され、平成16年、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」（特例法）が施行されたことによって、性別不合をもつ人が性別適合手術の実施を含む一定の条件のもとで戸籍の性別を変更できるようになりました。性別不合を有する人の正確な頻度は不明ですが、おおよそ成人男性の3万人に1人、成人女性の10万人に1人が性別適合手術を望んでいると推定されています。

これに伴い、日本精神神経学会によって策定された「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」に準じて、北海道、関東、中部、中四国、九州地方の医療機関がGID学会の認定施設として、上記の身体的治療を含め性別不合の医療対応を行ってきています。長年、東北地方はこれらの医療体制の空白地域で、性別違和を有し、身体的治療導入を希望する人は、関東等の他の地域を受診するしかありませんでした。この状況を改善するべく、東北大学病院では、2年程前から、中国体彩网、形成外科、産婦人科、泌尿器科の担当者間で情報?意見の交換を重ね、この領域の先駆である岡山大学病院や関東ジェンダー医療協議会からのサポートを得ながら診療体制の整備を行ってきています。

東北大学病院単独で性別適合手術まで含む身体的治療が可能になるまでにはもうしばらく時間を要すると考えられますが、東北地方に居住する性別不合を有する人が被る地域格差を改善するべく、できることから取り組みを始めて参ります。また、指定国立大学東北大学に設置されたジェンダー医療センターとして、性別不合をはじめとするジェンダーの多様性に関する課題の解決に向けて、地域の医療、教育、その他の関連団体やダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けた取り組みと連携を進めるとともに、最先端の科学技術や学際連携を駆使した取り組みも進めて参りたいと存じます。