研究
全ゲノム解析情報を用いて急性リンパ芽球性白血病の治療効果判定に成功 ~コホート調査の所見からの早期介入例~
【研究のポイント】
?次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析情報により、急性リンパ芽球性白血病の治療効果判定に成功
?東北大学東北メディカル?メガバンク機構(ToMMo)が実施するコホート調査により、急性リンパ芽球性白血病疑いの事例を早期発見、治療につなげた。前向きコホートにおける偶発的所見が研究参加者に早期に直接還元され臨床につながった事例
?東北大学病院 血液?免疫科との共同研究として実施され、成果はBritish Journal of Haematology 誌オンライン版に1月29日(英国時間)に掲載予定
【研究概要】
東北大学東北メディカル?メガバンク機構(以下、ToMMo)は、2013年から地域住民コホート調査を実施しています。同調査では、原則として全ての参加者から採血を行い、その血液はバイオバンクの構築に用いられると共に、その一部は、参加者への結果回付等のために、通常の健康診断よりも詳細な検査に付されます。
同調査に参加された方の詳細血液検査において、急性白血病の疑いのある方が発見され、本人への説明と同意のもとに、診断と治療のため、東北大学病院血液?免疫科への紹介が行われました。同科における検査から、本参加者は初期前駆T細胞性急性リンパ芽球性白血病(ETP-ALL)に罹患していると診断され、治療が開始されました。
ETP-ALLは急性リンパ芽球性白血病のうちでも比較的まれで、治療が困難なタイプの白血病です。白血病は血液の悪性腫瘍であり、その発症には骨髄細胞で後天的に発生した遺伝子変異が関連しますが、ETP-ALLではそのような分子基盤の解明が進んでいません。そこで、東北大学病院 血液?免疫科での診断後、治療方針の策定と効果判定に包括的な遺伝子解析が有用と考えて、本人への説明?同意のもとにToMMoで全ゲノム解析を実施しました。その後、治療経過に沿って、全ゲノム解読によって得られた情報を活用して次世代シークエンサーによる治療効果の判定支援も行いました。
本件は、前向きコホートでの偶発的所見が早期に研究参加者に直接還元されたケースです。今後、ToMMoは、今回のような直接的な貢献だけではなく、これまでの研究で得た知見を各種の悪性腫瘍の治療効果判定へ応用することで、さらに地域医療の進歩へ貢献してまいります。
なお、本成果は、東北大学病院血液?免疫科との共同研究として、British Journal of Haematology 誌オンライン版に1月29日(英国時間)に掲載される予定です。
【論文名】
Monitoring of minimal residual disease in early T-cell precursor acute lymphoblastic leukemia by next-generation sequencing
「次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析情報による初期前駆T細胞性急性リンパ芽球性白血病治療の効果判定」
掲載予定誌:British Journal of Haematology
地域住民コホート調査:
東北メディカル?メガバンク計画の中で、東北大学と岩手医科大学が取り組むコホート調査(長期健康調査)の一つで、宮城県?岩手県に住む20歳以上の方を調査の対象としています。宮城県では東北大学東北メディカル?メガバンク機構が、岩手県では岩手医科大学いわて東北メディカル?メガバンク機構が調査を実施しています。
なお、コホート調査とは、ある特定の人々の集団を一定期間にわたって追跡し、生活習慣などの環境要因?遺伝的要因などと疾病の関係を解明するための調査を指します。
次世代シークエンサー:
ランダムに切断されたDNA断片の塩基配列を1塩基ずつ決定する解析プロセスを、数百万以上ものDNA断片に対して同時並列的に処理することができるため、従来型の解析方法と比較して、短時間で精度の高いデータが得られる新型のDNA解析装置です。
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学東北メディカル?メガバンク機構
ゲノム解析部門 分子ネットワーク解析分野
教授 安田 純(やすだ じゅん)
電話:022-272-3102
Email:jyasuda*megabank.tohoku.ac.jp(*を@に変えてください)
(報道担当)
東北大学東北メディカル?メガバンク機構
広報戦略室長 長神 風二(ながみ ふうじ)
電話:022-717-7908
FAX:022-717-7923
Email:f-nagami*med.tohoku.ac.jp(*を@に変えてください)
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