研究
パーキンソン病病原タンパク質の受容体を特定 ?病態メカニズムの解明、進行抑制治療開発に期待?
パーキンソン病(注1)では、凝集したαシヌクレイン(注2)とよばれるタンパクが神経細胞間を伝播し蓄積することで神経細胞死が誘発されますが、その詳細なメカニズムは不明でした。
東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野 長谷川 隆文(はせがわ たかふみ)准教授、石山 駿(いしやま しゅん)医員らの研究グループは、凝集αシヌクレインが脳内で拡大?蓄積するメカニズムを明らかにしました。本研究では、脳全体の膜タンパク質を網羅的に探索し、神経細胞表面の凝集αシヌクレインの取り込み口となる受容体(注3)タンパク質として、ソーティリン(注4)を新たに同定しました。ソーティリンと結合した凝集αシヌクレインは細胞内へ取り込まれ、エンドソーム(注5)とよばれる袋状の構造体に運ばれて蓄積します。パーキンソン病および類縁疾患である多系統萎縮症患者脳内のαシヌクレイン陽性のレビー小体?グリア細胞内封入体(注6)でソーティリンの集積が検出され、ソーティリン発現抑制?抗ソーティリン抗体により、凝集αシヌクレインの神経細胞への取り込みと蓄積が有意に抑制されることが明らかとなりました。
これらの知見は、パーキンソン病関連疾患の病態解明に貢献すると同時に、今後の進行抑制治療薬の開発に寄与することが期待されます。
本研究成果は、2023年6月5日に米国実験生物学会連合の科学誌The FASEB Journalに掲載されました。
【用語説明】
注1.?パーキンソン病:中脳黒質のドパミン神経をはじめとした神経細胞脱落により、振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋のこわばり)などの運動症状に加え、便秘、睡眠障害、嗅覚障害などのさまざまな非運動症状を来す進行性の疾患。60歳以上の1%にみられ、全国に16万人以上の患者がいる。現行の治療は脳内ドパミン補充を中心とする対症療法に限定され、進行抑制治療は確立されていない。
注2.?αシヌクレイン(α-synuclein):中枢神経系に豊富に発現する140アミノ酸からなるタンパク質。孤発性パ?キンソン病や多系統萎縮症の患者脳内の神経細胞?グリア細胞内には、毒性を持つ異常に凝集した同蛋白が検出される。また、αシヌクレインの点変異?遺伝子重複は家族性パーキンソン病を発症させる。
注3.?受容体:レセプター(receptor)ともよばれ、細胞外からやってくるさまざまな分子(神経伝達物質、ホルモン、ウイルス、生理活性物質等)と選択的に結合する膜タンパク質。細胞外分子の取り込みや、細胞内へのシグナル伝達に重要な役割を担う。細胞表面に存在するものが多いが、細胞内あるいは核内に存在するものもある。
注4.?ソーティリン(sortilin):ほ乳動物の神経組織に高発現する831アミノ酸からなる膜タンパク質。βプロペラドメイン?10CCドメインとよばれる細胞外領域、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインから構成される。細胞膜上の受容体としてさまざまな分子と結合し、細胞内外の物質輸送に重要な役割を担っている。
注5.?エンドソーム(endosome):細胞内に存在する、膜に囲まれた小さな袋状(小胞)の構造体で、細胞内外での物質の輸送や代謝に重要な役割をもつ。細胞膜の一部が細胞内に陥凹し、形成される。
注6.?レビー小体(Lewy body)?グリア細胞内封入体(glial cytoplasmic inclusion):凝集したαシヌクレインを主要成分とする神経、グリア細胞内にみられる構造物。前者はパ?キンソン病、後者は多系統萎縮症の脳内に出現する。
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