研究
東日本大震災による心の傷に漢方薬が効果あり -心的外傷後ストレス障害に新たな治療法-
東北大学病院(病院長:下瀬川 徹)漢方内科(石井正科長)の高山真准教授のグル ープは、東日本大震災により生じた動悸や不眠、感情不安定などの症状に対して、心身のバランスを整えるために、漢方薬「柴胡桂枝乾姜湯※(さいこけいしかんきょうとう)」 が有効であることを示しました。大震災などの大きな出来事により生じた心の傷に対して、漢方薬が治療方法の一つとなることを日本で初めて明らかにした重要な成果です。 本研究結果は 2014 年3月24日、『Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine』誌(電子版)に掲載されました。
【研究概要】
東日本大震災により多くの方々が心に傷を受けました。心の傷は、体にも様々な症状を引き起こし、心的外傷後ストレス障害という病気を発症します。 本研究には、震災後に新たに恐怖?緊張感?パニック?動悸?不眠?吐き気?感情不 安定?ふらつき感などの症状を発症した 43 名の患者さんの協力を得ました。患者さんは、研究の説明を受けた後、漢方グループ(21 名)と待機グループ(22名)に分かれ ました(図 1)。漢方グループは、漢方薬(柴胡桂枝乾姜湯)7.5gを 1 日3回に分けて2週間内服しました。待機グループは、症状増悪時の対応などを十分に理解した上で、2週間の治療待機をお願いしました(図 1)。症状の変化は、アンケートによる点数で評価しました(表1)。
評価の結果、漢方グループでは、2週間の漢方薬内服により症状の評価点数が平均 49.6 点から 25.5 点へと改善しました(図 2)。待機グループでは、平均 43.7 点から 39.3 点とほとんど変化がありませんでした。このことから、心身のバランスを整える柴胡桂枝乾姜湯は、震災後の心的外傷後ストレス障害の症状に対して有効であることを確認しました。
心的外傷後ストレス障害の治療では、認知行動療法や抗うつ剤による薬物療法が行われます。しかしながら、被害の大きな災害の現場では認知行動療法は事実上実施困難な場合があります。また、抗うつ剤による薬物療法は、効果が現れるまで2週間以上の期間を要する上、自己中断による離脱症候群の報告もあり、専門医でない場合には医師側?患者側ともに用いにくいという側面もあります。今回の成果から、今後はこのような疾患に漢方薬治療も選択肢の一つとなる可能性があると考えられます。
【補足説明】
※ 柴胡桂枝乾姜湯
柴胡、黄芩、栝楼根、桂皮、牡蛎、甘草、乾姜など7種類の生薬を含む漢方薬。自律神経失調症や更年期障害、不眠症、動悸などの症状に対して使用される。
患者さんの症状を、上記アンケートの1~22の各項目について、「全くなし(0点)」から「非常にある(4点)」の5段階で評価した。25点以上で心的外傷後ストレス障害を疑う。
恐怖?緊張感?パニック?動悸?不眠?吐き気?感情不安定?ふらつき感のいずれかを有する成人男女のうち、表1のアンケート内容得点が25点以上の43名の患者さんに協力を得た。漢方グループ(21名)と待機グループ(22名)に分かれてもらい、漢方グループは、柴胡桂枝乾姜湯7.5gを1日3回に分けて2週間内服した。待機グループは、2週間の治療待機をお願いした。症状の変化は、症状のアンケートによる点数で評価した。
漢方グループでは、漢方薬内服により症状の評価点数が明らかに改善した。待機グループでは、ほとんど変化がなかった。
【お問い合わせ先】
東北大学大学院医学系研究科
総合地域医療研修センター 准教授 高山 真
電話番号 :022-717-7507
Eメール :takayama*med.tohoku.ac.jp(*を@に変えてください)
【報道担当】
東北大学病院広報室
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