研究
空腹時血中C-ペプチドの値から災害による 糖尿病悪化のリスクを予測 ~東日本大震災被災患者に関する調査研究~
【研究概要】?
東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野 片桐秀樹(かたぎり ひでき)教授、東北大学病院糖尿病代謝科 今井淳太(いまい じゅんた)講師、田中満実子(たなか まみこ)医師らのグループは、東日本大震災に被災した糖尿病患者に関する調査研究を行い、被災後血糖コントロールの悪化する患者の予測マーカーとして、空腹時血中C-ペプチド(注1)検査値を見出しました。これまで糖尿病災害弱者を予測する臨床的な指標の報告はなく、世界的にみても初めての成果です。
この研究成果は9月23日国際専門誌Diabetes Care誌 (電子版)に掲載されました。
【研究内容】
これまで大地震や巨大台風などの大規模自然災害に被災した糖尿病患者の病状は、被災後に悪化することが報告されていました。しかし、今井講師らは、東日本大震災後、多くの糖尿病患者に対する実際の診療を通じ、災害後の糖尿病状態は、患者個々人によってかなり大きな違いがあることに気づき、調査を開始しました。
今井講師らは宮城県、福島県で東日本大震災に被災した497人の糖尿病患者を、震災前後で糖尿病状態が改善した群と悪化した群に分け、様々な検査値などについて比較検討を行い、その結果、糖尿病悪化群と改善群とで違いのあるものとして、「空腹時血中C-ペプチド低値」を見出しました。そこで今度は、空腹時血中C-ペプチドの値が高い群、中間群、低い群の3群に分けて、震災前後での糖尿病状態の変化を検討したところ、空腹時血中C-ペプチドの値と震災後の糖尿病状態の悪化とが相関し、空腹時血中C-ペプチドの値が低い糖尿病患者ほど、震災後の糖尿病の状態の悪化が顕著であることがわかりました。
空腹時血中C-ペプチドは、インスリンを分泌する力を反映していると考えられています。つまりこの結果は、インスリンを分泌する力の弱い糖尿病患者ほど、被災後に糖尿病状態が悪化しやすいことを示したもので、生活や心理状態が大きく変化する大規模災害後における糖尿病悪化のメカニズムの解明にもつながるものです。
さらに、空腹時血中C-ペプチドの値と震災後の糖尿病状態の悪化の関係が明らかになったことにより、災害が起こる前の日常診療の段階で、患者の空腹時血中C-ペプチドを調べることから、被災後糖尿病状態が大きく悪化する患者をあらかじめ把握でき
るようになると考えられます。この結果、該当する患者に対し、前もって被災後の治療や生活に関する指導を重点的に行ったり、災害後に効率的に医療資源を投入したりすることなどに活用でき、糖尿病状態の悪化やそれに伴う健康被害を未然に防ぐことに役立つものと期待されます。
本研究は東北大学大学院薬学研究科医薬開発構想講座の今井潤教授のグループとの共同研究にて行われたものです。また、本研究は文部科学省補助金事業Global-COE ”Network Medicine”プログラムにより支援されました。
【用語説明】
注1. 血中Cペプチド:膵臓のβ細胞ではインスリンとC-ペプチドが等量生成されて血中に分泌されます。したがって、血中のC-ペプチドの値を測定することにより、実際に膵臓β細胞から分泌されたインスリンの量を推定することができます。糖尿病患者などではしばしば治療にインスリン注射が用いられているため、血中のインスリンの値は注射によるインスリンの影響を受け、必ずしも膵臓からのインスリン分泌能を反映しません。血中C-ペプチドの測定は、実際に膵臓からのインスリン分泌能を知る指標として用いられます。
【論文名】
タイトル:Glycemic control in diabetic patients with impaired endogenous insulin secretory capacity is vulnerable after a natural disaster: Study of Great East Japan Earthquake
(日本語訳):内因性インスリン分泌能が低下した糖尿病患者の血糖コントロールは自然災害に対して脆弱である:東日本大震災調査研究
掲載論文誌:Diabetes Care(電子版)?
【お問い合わせ先】
東北大学病院 糖尿病代謝科
講師 今井 淳太(いまい じゅんた)
電話番号:022-717-7611(医局)
FAX: 022-717-7612
Eメール:imai@med.tohoku.ac.jp
【報道担当】
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
講師 稲田 仁(いなだ ひとし)
電話番号:022-717-7891
FAX:022-717-8187
Eメール:hinada@med.tohoku.ac.jp
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