男性だけでなく、女性も子どもも
トイレの悩みは日々の生活に大きく影響します。外出自体がおっくうになったり、思い切り生活を楽しむことができなくなってしまうことも少なくありません。しかし、「年だから仕方がない」「恥ずかしい」などの理由で誰にも相談できないまま一人で悩む方が多いのが現状です。例えば、「急に尿意を感じて我慢ができない」「尿もれが心配」「夜中に何度もトイレに起きる」といった悩みは、過活動膀胱という病気の症状かもしれません。きちんと治療すれば不安や心配が解消され、QOL(Quality Of Life :生活の質)を大きく向上させることができます。
泌尿器科は男性が受診するイメージが強いと思いますが、実際は女性や子どもの患者さんも多く受診しています。特に女性は加齢に伴って、排尿にトラブルを抱える方も多いですし、子どもも、先天性異常の3分の1は泌尿器科が扱う疾患です。新生児から90才以上の超高齢者まで、男女問わず診しています。扱う病気も、がんなどの深刻なものから、尿失禁などのQOLに関わる症状まで実に広範囲です。
増える泌尿器の病気
日本では、男性の4人に1人が前立腺、腎臓、精巣など、泌尿器のがんにかかっています。中でも近年急増しているのが、前立腺がんです。日本人男性のがん罹患率を見ると、2011年の推計では前立腺がんが胃がんに次いで第2位でしたが、2015年についにトップとなりました。年間の新患者数は98000人と言われています。前立腺がんについてぜひ知っておいて欲しいのは、早期に発見する手段があるということです。採血によりPSAという前立腺がんマーカーの値を測定する簡便な方法です。治療も選択肢が多く、早期に見つかれば根治も期待できます。ヨーロッパで行われた大規模調査では、PSA検査により前立腺がんの死亡率が減少したという結果も報告されており、早期発見にはPSAが有用であることが示されています。50歳を過ぎたら一度は検査を受けて、自分のPSA値を確認していただきたいです。
負担を少なく優しい医療を
東北大学病院では、前立腺がんの手術のほぼ100%を手術支援ロボットda Vinci(ダ?ヴィンチ)で行っています。1~2㎝の小さな穴から内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、医師は離れた場所でモニター画面に映し出される3次元立体画像を見ながら、ロボットアームを操作して手術を行う方法です。奥行きを感じて操作できると同時に、開腹手術では目が届きにくいと負担を少なく優しい医療をころも拡大視野で捉えることができ、従来と比べてより正確な切開や縫合が可能になりました。ロボット手術のメリットは、術後の痛みも軽く回復が早いこと、機能の温存が期待できることです。これまで術後の尿漏れや勃起障害が問題となっていた前立腺全摘術でも、括約筋と勃起神経の位置を正確に把握して繊細な手術ができるため、性機能温存に優れています。この他にも、尿失禁では人工尿道括約筋の埋め込み手術、腎がんでは腹腔鏡手術などを積極的に取り入れて、患者さんに
優しい医療の実現を目指しています。
「プライベートパーツ」を扱う診療科として
「最後まで、自分で排泄をしたい」。これは、ある老人クラブで、自分が治療の見込みのない病気になったとき最後に望むことは何か、という質問に対して最も多かった回答です。排泄は、人間の羞恥心やプライドに関わる行為であり、排泄の自立は、人が人として生きていくうえでの根幹をなすものと言えるでしょう。私たち泌尿器科は、排泄機能や性機能、生殖機能など、「プライベートパーツ」を扱う診療科です。超高齢社会の中で、私たち泌尿器科が果たす役割はますます大きくなってきています。患者さんが不安なく社会で活躍し、豊かな生活を送ることができるよう、安全に最新の医療を提供すること、そして、人間の尊厳を優しく支えていくこと、これが私たちが目指す医療です。