東北大学病院では、企業の方々が医療現場の観察を通じてニーズを探索し、新たな医療機器や医薬品、サービスの製品化、事業化を目指す「東北大学病院ベッドサイドソリューションプログラム」を提供しています。そこではインターン生も「戦力」として、課題の洗い出しや企業のビジョン実現に向けた提案を行っています。それぞれの経験を経て東北大学医学部に進学し、2022年にインターンシップに参加した佐藤匠隼さん、西尾実華さんに話を聞きました。
——まずは東北大学に進学した理由から聞かせてください。
西尾)もともと研究に興味があり、東北大学が掲げている門戸開放、研究第一という理念に惹かれました。特に脳について研究したいと思っていたので、脳神経に強い先生がたくさんいらっしゃるということで、東北大学を選びました。
私は出身が東京なので、何となく西に行くのが怖くて、仙台だったら東京からはやぶさで1時間半で帰れますし、仙台に遊びに来ることが多かった姉からも「仙台はいい所だよ」と聞いていました。仙台の街はコンパクトにまとまっている中にもいろんなものがあって、おいしいものも多くていいですよね。定禅寺通の緑の雰囲気も好きです。
実は東北大学に初めて来た時に、直感的に「ああ、この大学に入りたいな」と思ったんです。そうしたことを総合して選びました。
——脳に興味があったのはなぜでしょう。
西尾)中高時代に陸上競技をしていたのですが、体を動かす時は意識して動かすといいと言われていました。例えば筋トレに筋肉が動くのをイメージするといいとか、理想の走り方をイメージしながら体を動かすとその走りに近づくとか、脳を介して体を動かしている、その意識というものがとても面白いなと思いました。
それと、絵を描くのが好きで、絵を描く時は日常生活で意識していない所に注目するんですよね。例えば目の前にある柱はなぜ立体的に見えるんだろう、角張って見えるんだろうと考えると、影や色のコントラストの差があることに気付く。それで光が当たっているように見えたり、奥まっているように見えたりするんだなと。
絵の先生からも「ふわふわしていると思えばそれはふわふわして見えてくる、描けるようになってくる」と教えられて、意識して見ることでそれを具現化できるようになるというのが面白いなと思いました。
佐藤)私も脳科学の研究に興味があって、川島隆太先生のラボに通っています。実は私が中学生の時に父親がうつになり、心と脳の関係というものに興味を持ちました。
それにはどの大学がいいかと調べ、東京大学の理一か東北大学かの選択で、私は小学校まで仙台で暮らしていて中学の時に東京に行ったので、知っている土地だし東北大学もいいかなと。川島先生はすごく有名な方ですし、お会いしてみたいという気持ちもありました。
東北大学に入ってみて思ったのは、いろんな分野のスペシャリストがいらっしゃって、それでいて皆さんがフレンドリーだということ。門戸開放にもつながりますが、有名な先生から、今度食事に行こうよなんて誘っていただけることがあり、そんなところも東北大学の魅力かもしれません。
——大学では現在、どのようなことを学んでいますか。
西尾)今は5年生で、病院実習でいろいろな科を回っています。病気の治療のほかにも合併症や、それに対する副作用に向き合わなければいけなくて、いろんな方向からさまざまな治療をしなければいけないところに難しさを感じています。病院実習では患者さんとお話しする機会が多いのですが、患者さんがどういう気持ちでどのように入院生活を送っているのかを知ることができます。また、患者さんが身近な質問を私たちにしてくださって、それによって自分が分かっていなかったことに気づいたり、それに答えようとする中で考える力や分かりやすく伝える力が身に付いたかなと思っています。
佐藤)私も西尾さんと同期で、同じ科を回っていますので同様のことを学んでいますが、付け加えると病気のイメージがつきやすくなりました。国家試験の勉強をしているとどうしても文章ベースで、こういう症状があります、その理由はこうですと書かれていて、いまいち想像がつかない。実際に患者さんを診て、それはこういうことだったのかと分かるようになりました。
——東北大学病院ベッドサイドソリューションプログラムのインターンシップに参加した理由を教えてください。
西尾)私はビジネスにも興味があり、ベッドサイドソリューションプログラムを通して企業の方々がどのような目線で医療に関するビジネスをしているか知りたいと思いました。匠隼君がそういうことをやっていると聞いて、面白そうだけど大変そうだなと思っていたんですが、彼が一緒にやろうよと熱烈に誘ってくれたのがきっかけで、参加しました。
——佐藤さんはどんなきっかけだったんですか。
佐藤)2年ほど前からベッドサイドソリューションプログラムを主導している脳神経外科の中川敦寛先生の元でアルバイトをしていたんですが、先にインターンになった学生から、インターンになるとアルバイトでは入れないミーティングにも参加して、中川先生がどういうふうにデザインしているのかをそばで見ることができると聞きました。
基本的にアルバイトには、デザインがある程度出来上がって、実際にインターネットや文献を当たって調査しましょうという段階になってから仕事が下りてきます。ですので、インターンになってその前段階のデザインそのものをするところを見てみたいなと思いました。
——インターンとして、主にどのようなことを行っているんでしょうか。
西尾)プログラムでは企業さんがやりたいことを実現するために、ビジョンを明確にして、問題点を洗い出して、現実にするための道順を一緒に考えていくことをしています。その中で私たちも会議で意見を言ったり、プレゼンテーションをしたりしています。
中川先生も私たちを一戦力として扱ってくださいますし、企業の皆さんも対等な目線で意見を求めてくださいます。企業さんがしたことのない考え方を、中川先生と一緒にデザイン思考を使って違う方向からしてみる、新たな風を取り入れていくというのが企業さんの求めに応えることなのかなと感じています。
佐藤)同じく、企業さんのミーティングに入らせてもらって、掲げているビジョンや抱えている課題を、デザイン思考を使ってどう解決するかというところに関わらせていただいています。西尾さんのおっしゃるように、先生は戦力としてインターンを見てくださっていると感じますが、そうは言っても中川先生のお手本をそばで見させていただくことが多いですね。