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地域医療のカルテ
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東北大学病院が地域とともに目指す医科歯科連携とは◆Vol.1
東北大学病院が地域とともに目指す医科歯科連携とは◆Vol.1
地域医療のカルテ 2022.11.01

東北大学病院が地域とともに目指す医科歯科連携とは◆Vol.1

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人口減少、高齢化に伴う医療ニーズの質?量の変化に伴い、医科歯科連携のあり方やその課題も変化しつつあります。より良い医療を提供するには、東北大学病院内ではもちろんのこと、地域の歯科診療を担う方々との連携が不可欠です。宮城県における現状と課題を共有し、今後どのような取り組みが求められるのか意見を交わしてもらいました。

医科歯科連携から「愛し(医と歯)の関係」へその現状と効果

飯久保:今回は「医科歯科連携」がテーマですが、そんな硬い言葉ではなく、これを医と歯の「愛しの関係」という駄じゃれを交えたキャッチコピーを使って広報していきたいと考えています。この「愛し(医と歯)の関係」について、皆さんと意見交換できればと思います。

江草:私はこれまでいくつかの大学に勤務しましたが、東北大学に来て驚いたのは、同じ病院敷地内の同じ建物の中で医師と歯科医師のコミュニケーションがとてもうまくとれていて、その成果が実際に患者さんに届いていることでした。口は体の入り口です。超高齢社会になった今、医科と歯科の連携がより大切になっていることは、行政も医療従事者もよくわかっているのですが、一般的にはどちらかというと歯科が前のめりになって取り組もうとする一方で、医科の先生方にとっては、多科連携診療は特段に歯科だけというわけではないので、どこか歯科から医科への片思いのような印象を受けていました。

飯久保:そういう意味で、医科と歯科が片思いではなく、まさに「愛し(医と歯)の関係」というキャッチコピーはいいですね。現場で本当に何が必要とされているかをお互い掘り下げて話し合うことによって、関係が深まっていくのではと思います。

亀井:江草先生のお話にありましたように東北大学病院は2010年※に歯学部附属病院と統合しました。医科と歯科が一つの建物の中で診療できるようになったことが大きいかと思います。一つエポックメーキングだったのは、2015年に周術期口腔支援センター、現在の周術期口腔健康管理部という組織がつくられたことで、医科からも患者さんを紹介しやすくなったことです。大きな手術を受ける患者さんの口腔ケアをすると術後の肺炎などが少なくなることは、もうずっと前から言われてはいました。手術前から歯科の先生に患者さんの口腔環境を整えてもらい、さらに手術の後も診てもらうという一連の流れができているのは非常に素晴らしいと思います。ほかには抗がん剤治療の口腔支持療法。口の中の粘膜がただれたり顎骨(がっこつ)に異常が起こったりということがありますので、その点でも歯科の先生に専門的なケアをしていただくことで、強い抗がん剤の治療の継続ができるので、非常にありがたいです。

飯久保:今のお話に関連して、私の関わった論文で、周術期の術前の口腔ケアを受けた人と受けていない人を比較したものがあります。これによると、全ての患者さんで見た場合に、口腔ケアを受けた人は、受けてない人と比べて、数学的に有意に術後発熱などの割合が下がっています。特に60 歳以下の若い人に絞ると、発熱以外の部分も含めて統計的にきれいな有意差が出ました。年配の方になると他のファクターがいろいろ入ってきて、数学的に有意差が出にくくなるということだと思います。年配の方だけでなく全ての年齢の方にとって、口腔ケアが必要だということが分かりました。

亀井:私が専門にしている食道がんですと、やはり術後の肺炎や発熱はかなり多く、中にはそれが長く続く患者さんもいます。しかし、口腔ケアをすることでその程度も重症度もかなり少なくなったと感じています。

宮城県における地域医療との連携と現場で抱える課題

飯久保:東北大学も参加した多施設共同研究で、術前に口腔管理をした人としていない人では、術後のアルブミン値が異なるということも明らかとなっています。口の中をきれいにするだけではなく、入れ歯が当たっている所を調整したり、とがっている歯を丸めたりと、食事をきちんと取れるような環境にしてから手術を受けてもらうので、このような結果が出てくるのだと考えています。これについては、地域の歯科の先生方にも協力をお願いしたいところです。手術前後の口腔管理はわれわれでできますけれども、手術前から患者さんに噛めるような環境を維持してもらうことは、かかりつけの先生の協力なしにはできません。

細谷:地域の歯科診療所としては、医科の先生から患者さんを紹介されることが確実に増えつつあると感じています。周術期の口腔管理の重要性が叫ばれてきておりますし、宮城県歯科医師会でも全国共通がん医科歯科連携講習会等の開催を重ねてきていますので、理解されている先生方が多くなってきているからだと思います。手術、放射線、化学療法などのがんの治療を受けている患者さんについては、宮城県内のがん診療連携拠点病院が地域の歯科診療所と連携を取るように働きかけていますよね。拠点病院によっても差はあるようですけれども、地域との連携は総体的に増えているだろうと思います。

飯久保:宮城県は全てのがん診療連携拠点病院に歯科がありますね。これは県のがん対策推進基本計画で、全ての拠点病院に歯科医師と歯科衛生士を置くことを目標に掲げ、それが達成された形です。そこを中継として各地域の先生にお願いするという連携が宮城は上手に取れていると思います。

入野田:日本歯科医師会の統計でも宮城県は連携が進んでいることが分かります。令和4 年4月に日本歯科医師会が実施したアンケートのがん薬物療法と放射線治療に関わる部分では23.8% の連携が行われているという回答で、他県に比べて大きく進んでいるとまでは言えませんが、ある程度の結果は得られています。

細谷:病院の中に歯科がある場合は、その病院の歯科の先生が院内で医科と歯科の連携を進めるキーパーソンになります。しかし、現状は、歯科のある病院は約2割しかなく、あっても歯科医師、歯科衛生士が十分に配置されていない場合が多いのです。病院にある色々な診療科で、入院された患者さんに対してそれぞれの状態に応じて口腔管理、ケアをしていくことが必要です。そのためにはそのためのマンパワーが必要。一定数以上の病床を持つ病院には歯科の設置と歯科医療従事者配置の拡充?強化をしていっていただきたいというのがわれわれの大きな願いでもあり、日本歯科医師会でも厚労省に対する重点要望事項の上位に置いています。

江草:経営の視点から言えば、歯科はあくまで病院の1部門ですので、そこにマンパワーを割くためには、病院全体から見た医科歯科連携の明確なメリットが理解されることが重要と思います。そこでどうやってその大切さを発信していくか、戦略が必要という時に、この「愛し( 医と歯)の関係」ですね。先程の論文などの情報を基に、医と歯の連携が患者様の利益に貢献するだけでなく、病院の経営に対しても利点となることをキャッチコピーと共に打ち出していけば、より理解が進むかもしれません。

細谷:全ての診療科において歯科の介入がある他大学の病院などの例ですが、入院患者に必要な口腔管理をすることによって病院の収益がプラスになるという報告が出ています。合併症、入院日数の減少によって、病院側ではその分受け入れ入院患者さんの増加による収益の増加、患者さん側では医療費の減少という両者がプラスになるという実績を増やしていき、データを示していくことが必要です。他の大学に比べて医科歯科連携が進んでいる東北大学病院には、そうした役割も果たしていただければと期待しています。

※歯学部附属病院は、2003年10月、医学部附属病院との統合による東北大学病院の創設、2007年2月、大学病院新病棟への病床移転に伴う大学病院附属歯科医療センター(外来診療部門)の設置、大学病院新外来棟の完成に伴う統合による附属歯科医療センターの廃止により、2010年1月、大学病院歯科診療部門としてスタートした。

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細谷 仁憲(ほそや よしのり)
1972年東北大学歯学部卒業、東北大学歯学部歯科第2補綴学教室文部教官助手、大学院研究生、関歯科クリニックを経て1978 年はちまん歯科医院を開院、2006年宮城県歯科医師会会長に就任。
入野田 昌史(いりのだ まさふみ)
1982年神奈川歯科大学歯学部卒業、東京医科大学口腔外科、1984年古河日光総合病院歯科、1987年船木歯科診療所を経て、1988年入野田歯科医院を開院、2015年宮城県歯科医師会業務執行理事に就任。
飯久保 正弘(いいくぼ まさひろ)
1994年東北大学歯学部卒業。2020年に東北大学歯学研究科歯科医用情報学分野教授に就任。2021年より東北大学病院顎口腔画像診断科科長、周術期口腔健康管理部部長、2022年より東北大学病院副病院長を兼任。
亀井 尚(かめい たかし)
1991年東北大学医学部卒業。1999年同大学院医学系研究科博士課程修了。2016年12月より東北大学消化器外科学分野教授に就任。2019年より、東北大学病院診療担当副病院長兼任。
江草 宏(えぐさ ひろし)
2002年広島大学大学院歯学研究科修了(博士)。香港大学、米国UCLA、大阪大学を経て、2014年より東北大学大学院歯学研究科教授。2018年より東北大学病院副病院長、2022年より東北大学病院総括副病院長。

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