脳の髄液手術で減らす
認知症とは、脳の障害により記憶力や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障が出てきた状態です。高齢化社会を迎えた今現在、正常圧水頭症という病気が認知症の原因として注目されています。
200人に1人発症
正常圧水頭症は、頭の中で水(髄液)のたまっている脳室がとても大きくなります。髄液が増える原因となる脳の病気は幾つかありますが、それらを患っていなくても正常圧水頭症を発症することがあります。これは特発性正常圧水頭症と呼ばれており、高齢者に多いことが分かってきました。61歳以上では、少なくとも200人に1人以上の方々が発症しているのではないかと考えられています。
残念ながら、認知症の原因となる多くの病気では症状を良くする治療がないのですが、この正常圧水頭症は脳の中にたまっている髄液を減らす治療によって、症状をある程度良くすることができます。現在この病気が注目されているのは、認知症の原因となる病気であるにもかかわらず「治療可能」だからです。
三つの特徴出現
正常圧水頭症では三つの特徴的な症状が出現します。一つ目は歩きにくさです。バランスが悪くなるため、がに股、すり足、小刻みにゆっくり歩くようになります。転ぶことも多くなり、骨折してしまうことも珍しくありません。
二つ目は認知症の原因となる集中力、判断力の低下と物忘れです。さらに、物事への関心が薄れて何もしなくなったり、ささいなことですぐ怒るようになったりすることが多くなります。
三つ目は尿の間隔が非常に短くなることです。尿意を感じてから我慢できるまでの時間が徐々に短くなり、トイレに間に合わず失禁してしまうことが多くなります。
特発性正常圧水頭症は今まで脳の病気を患ったことがなくても発症する可能性がある病気です。前述した症状に心当たりがある場合は、かかりつけの医師に相談して脳神経内科を受診するようにしましょう。特発性正常圧水頭症に似た症状が出現する病気はたくさんあります。脳神経内科はそのような病気の専門科です。特発性正常圧水頭症と診断された場合は、頭の中の髄液を減らす手術(髄液シャント術)を脳神経外科に依頼することになります。
特発性正常圧水頭症は症状を良くすることができる数少ない脳の病気です。この文章を読んでいただいた方々が、この病気の発症を見逃さずに自立した生活を少しでも長く続けられることを祈っています。
河北新報掲載:2020年7月24日