成長に応じて矯正治療
口唇口蓋裂(こうがいれつ)は日本では500~600人に1人の頻度で発生する先天性疾患です。顔は、妊娠2~10週ごろに左右から伸びる複数の突起が癒合して作られます。しかし何らかの原因で癒合が進まないと、上唇、口蓋(上顎の歯列の内側)、歯槽骨(歯茎を支える骨)に割れ目(裂)が残ってしまいます。
裂の形態や閉鎖する手術の内容、子どもの成育の進み方にもよりますが、口唇口蓋裂は歯並びとかみ合わせに影響を及ぼす可能性があります。
歯並びの乱れも
口唇口蓋裂の患者さんは、手術などの影響で上顎が十分に成長せず、受け口(反対咬合(こうごう))や、歯が凹凸に生える乱ぐい歯(叢生(そうせい))になってしまうことがあります。また、裂部の永久歯がない、歯が小さいなどの原因で、歯並びや顔立ちに影響が見られることもあります。個人差が大きく、患者さんに適した歯並び?かみ合わせの治療(矯正歯科治療)と開始時期が重要です。
矯正歯科治療は、赤ちゃんの時に行われた手術や、その後の歯並び?かみ合せの状態、医療機関によっても異なりますが、成長に応じて段階的に進んでいきます。
まず、乳歯列期。上顎の成長が十分でないため受け口になっている患者さんには、上顎前方牽引(けんいん)装置を使って上顎の前方への成長を促します。
乳歯と永久歯が混在する混合歯列期には、赤ちゃんの時の手術で上唇、口蓋の裂はなくなりますが、歯槽骨に裂(顎裂)がまだ残っているため、裂を骨で埋める手術が必要になります。手術時期は体重や歯のはえる時期によりますが、小学校の低学年頃に行われることが多いです。乳歯から永久歯へはえ替わる状況や顎の成長に合わせて、矯正歯科治療を行います。
永久歯列が完成したら、マルチブラケット装置という矯正装置で歯並びとかみ合わせを改善します。手術で上下顎の位置関係を含め、かみ合わせの改善をすることもあります。
健康保険が適用
矯正歯科治療は、お口の環境を整えて健康を保ち、生涯を通して自身の歯でよくかんで楽しく食事をするためには不可欠な治療です。通常は自費診療ですが、口唇口蓋裂に伴う歯並び?かみ合わせの治療は年齢を問わず、厚生労働大臣が指定する医療機関では健康保険が適用されます。さらに、指定自立支援医療機関(育成医療?更生医療)であれば、自己負担分を軽減する制度を利用できます。詳しくは、日本矯正歯科学会および日本口蓋裂学会のホームページをご覧ください。
河北新報掲載:2020年6月26日