自覚したら検査で確認
腹部膨満(感)は「おなかが張る」という自覚症状で、その原因として、(1)腸管内にガス、便、液体などが過剰に貯留する(便秘や下痢)(2)腸管外に異常な液体(腹水)が貯留する(3)おなかの中の臓器に腫瘍(しゅよう)ができる(4)肥満(5)妊娠-などが挙げられます。
多種多様な腫瘍
卵巣は子宮の左右に存在し、通常は親指くらいの大きさですが、人の体の中で最も大きく、さまざまな年代の女性に多種多様な腫瘍をつくることがあります。卵巣腫瘍は(1)良性(2)良性と悪性との中間的な性格を有する境界悪性(3)悪性-に分けられ、悪性の腫瘍を「卵巣がん」と呼んでいます。
卵巣がんは自覚症状が乏しいことから、「サイレントキラー(無言の殺人者)」と称されていますが、早期から「おなかが張る(腹部膨満感)」「最近太って、スカートやスラックスが入らなくなった」という訴えがみられます。子宮がんなどでみられる不正出血はそれほど多くみられません。おなかが張る原因には多くの原因がありますが、「最近、おなかが張る感じを自覚する」場合には、産婦人科あるいは内科、外科の先生にご相談いただき、超音波検査などにより骨盤内の腫瘍、腹水などの有無を確認していただきたいと思います。
卵巣がんの治療は手術療法と薬物療法が原則となります。手術療法により病気の広がり(進行期)を確認、できる限り病気を取り除くことに努めます。一部の子宮がん(子宮頸(けい)がん、子宮体がん)に対して行われている低侵襲手術(腹腔鏡手術、ロボット支援手術)は、卵巣がんの診断を確認する手術に選択することはありますが、現時点では卵巣がんに対する根治的手術としてお勧めできません。病気の種類や広がりに応じて、薬物療法を追加しますが、病気の広がりによっては、薬物療法を先行し、根治的手術を行うこともあります。
新治療薬も開発
薬物療法には「化学療法(抗がん剤)」と「分子標的治療薬」があります。最近、がん細胞に特徴的に発現する標的因子が明らかになりつつあり、標的因子に特異的に作用し、がん細胞にダメージを与える「分子標的治療薬」が開発されています。卵巣がんに対しても数種類の分子標的治療薬が保険診療として用いることができるようになりました。東北大学病院では、病気の特性、病気の広がりや状態に応じて、患者さんやご家族と十分に相談し、難治性希少婦人科がんを含む婦人科悪性腫瘍に対する新たな治療の有用性を検証する臨床試験や医師主導治験なども選択肢とし、お一人お一人に適した治療の提案に努めております。
河北新報掲載:2020年1月10日
一部改訂:2023年11月30日