がんの骨転移の恐れも
がんが国民の死因第1位になって久しいですが、近年は比較的早期に発見され、幸いにも治癒する方も多くなっています。しかし、がんは進行すると最初に発生した部位から転移というものを起こします。
放射線が効果的
この転移先はがんの種類によって好発部位が異なりますが、肺や肝臓、脳、そして骨への転移をよく認めます。骨転移では特に背骨に好発し、背中や首、腰の痛みを引き起こします。この痛みは少しずつ増強し、安静にしていても痛みがあるため、就寝中に痛みで目が覚めてしまうこともあります。進行すると正常な骨構造が壊されるために、自分の体重を支えられなくなり、圧迫骨折を引き起こします。さらに進行しますと、いずれは背骨の中を走っている大変重要な神経の束である脊髄を圧迫してしまい、下半身のしびれやまひを引き起こすことにもなってしまいます。
中にはそれまで「がん」とは診断されずに、いつの間にか骨転移まで起こし、この背中の痛みで発症される方もいます。
この骨転移による痛みを抑えるために鎮痛剤を用いますが、それとは別に一般的に使われるのが放射線治療となります。放射線を患部に当てることで、がん細胞を殺すことによる効果だけでなく、がん細胞周囲に入り込んでいる炎症細胞、その細胞から分泌される痛みの原因物質を抑えることで痛みを大変効果的に抑えてくれます。大変よく効いた症例では一度失われた骨構造が再度構築されることもあります。
1回5分の治療
骨転移への放射線治療は一般的には1日1回5分程度で、2週間程度の治療となります。ただし、病状や患者さんの希望に応じて治療回数を調整します。状況によっては1回のみの放射線照射で終わりとなることもあります。おおむね8割程度の患者さんで疼痛(とうつう)制御効果が期待でき、なおかつ前述のような骨折予防効果もあります。最近では骨を含む転移であっても、特に少数の転移の際には高精度な放射線治療を行った方が従来の放射線治療方法よりも延命効果があるといった臨床試験結果が出てきています。その場合、1回の治療時間は15分程度かかることもありますが、2~5回で終了となります。当院でも必要な患者さんでは積極的にこのような高度な放射線治療を提供しています。一度放射線治療を実施後に、痛みがぶり返す方もいますが、もう一度放射線治療を実施することで痛みが和らぐ方もいます。
疾患によっては、骨病変にだけ選択的に取り込まれる放射性物質を血液内に投与し、骨病変にだけα線という強力な放射線を照射することもあります。
腰痛は多くの方が悩まされるもので、そのほとんどが加齢性の変化です。ずっと同じような症状であれば単なる腰痛と考えてよいのですが、だんだんひどくなってくる背中の痛みの場合は整形外科への受診をお勧めします。
河北新報掲載:2019年3月15日
一部改訂:2023年3月28日