「依存」正しく理解して
たばこを吸っているけれども、やめたいと考えている方は少なくありません。吸う場所も少なくなっているし、健康のことも気になるし、理由はさまざまでしょうが、あっさりと禁煙できたら素晴らしいです。しかし、やめるきっかけをつかめずにずるずると吸い続けたり、せっかくやめてもまた吸い始めたりする方も少なくありません。どうにもこうにもやめられず、開き直って禁煙自体を諦めたという話もよく聞きます。一体、どのように考えたらよいのでしょうか。
ニコチンが原因
やめられない理由の大部分はニコチンです。もともと人間の身体の中には存在しない物質ですが、ひとたび体に入ってくると脳の神経細胞の一部の受容体(ニコチン受容体)が敏感に反応します。たばこに含まれるニコチンは、ニコチン受容体を通して脳を刺激するのです。ニコチン受容体は微量のアセチルコリンという神経伝達物質に反応するようにできているのですが、喫煙では桁違いの量のニコチンが体に入ります。その強い刺激のため、習慣喫煙者ではニコチン受容体の機能が低下した状態になります。
ニコチン受容体の機能の低下は、関係する神経系の活動を低下させ、とくに覚醒度や集中力を低下させます。ニコチンの離脱(禁断)症状では、イライラして集中できなくなるなどの症状が見られますが、このために起こる現象です。喫煙でニコチンを補充すれば、これらの症状は改善しますが、時間が経過してニコチンが代謝されて血中濃度が低くなれば、元のもくあみです。たばこを吸って断続的に脳機能の一部を正常化させる作業を続ける、それが喫煙習慣なのです。ちなみに、非喫煙者ではこのような現象はみられません。寝不足でもなければ、たばこがなくても覚醒し集中も保ち、いつも穏やかな状態を維持できるのです。ニコチン受容体の機能が保たれるからです。
薬で状況は回復
たばこと縁を切るにはどうしたらよいでしょうか。このような「ニコチン依存」のメカニズムを正しく理解することが、禁煙の成否のカギです。ニコチン依存には脳機能の低下などを伴う身体的依存と、喫煙してニコチンが体に入った感覚をストレスが緩和されて解放されると思い込んでしまったりする心理的依存があります。禁煙外来などで処方される薬は身体的依存を緩和させるものです。身体的依存は数日から週の単位で問題なくなり、ニコチン受容体の状況は回復します。これに対して、心理的依存は場合によって一生続くと言われています。たばこをストレス解消と結びつける心理が消えないうちは、禁煙の失敗を繰り返してしまうかもしれません。紙巻タバコも加熱式タバコもニコチンを含んでおり、どちらもニコチン依存となります。依存を正しく知ることが禁煙を成功させる第一歩です。
河北新報掲載:2018年10月5日
一部改訂:2023年1月17日