膵がんの兆候の場合も
皆さんの中で、メタボ体形でもないのに急に糖尿病になったり、主治医の指導をきちんと守っているのに糖尿病が悪化したりしているという方はいらっしゃいませんか。最近、糖尿病とがん、特に膵臓(すいぞう)がんとの危険な関係が注目されています。
生活習慣が影響
がんと糖尿病は、その発症と予後に生活習慣の影響を強く受ける病気であり、肥満、運動不足、喫煙、加齢などが両方のリスク要因となります。しかし、これらの因子と関係なく、糖尿病が大腸がんや肝臓がん、膵臓がんをはじめ、さまざまながんの罹患(りかん)リスクを上昇させることが多くの研究から明らかとなっています。
このうち、膵臓がんの罹患リスクは糖尿病によって約2倍に上昇します。糖尿病ががん罹患リスクを増加させる理由は完全には分かっていませんが、インスリンが効きにくくなり多量に分泌される結果、高インスリン血症となることが、発がんに関与するようです。糖尿病がある場合には、性別や年齢に応じた科学的根拠のある、がん検診を受けることが勧められます。
一方、糖尿病が膵臓がん診断の糸口となる場合も少なくありません。特に、新たな糖尿病発症や、治療経過中の血糖コントロールの悪化が契機となります。膵臓がんと診断される1年ほど前から、血糖コントロールの悪化や体重減少がみられることが多いようです。
膵臓がんが小さい段階から糖尿病を発症させるメカニズムとして、膵臓がん細胞から糖尿病増悪因子が産生されてインスリンが効きにくい状態になったり、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の傷害を起こしたりすることが報告されています。
家族歴を認めず
それでは、どのような糖尿病の症例があれば膵臓がんに特に注意すべきでしょうか。新規糖尿病のうち膵臓がんを合併した症例では、合併しない例に比べて(1)高齢(2)体重減少(3)糖尿病と診断される前に肥満がない(4)糖尿病の家族歴を認めない(5)血糖値が1年前に比べて急に上昇している-という特徴があるとされます。
海外の研究では、糖尿病の家族歴がないことに加えて、65歳以上、2キロ以上の体重減少、発症前のBMI(体格指数)25未満の少なくとも一つが該当した場合は、膵臓がんが見つかりやすいという報告があります。
このような新規糖尿病や原因不明の血糖コントロールの悪化例で、特に体重減少を伴う場合は、糖尿病の陰に膵臓がんが隠れている可能性もあるので、主治医に相談してみてください。腹部エコーなどの画像検査で腫瘍や主膵管の拡張、膵嚢胞(のうほう)などが見つかったら、東北大学病院をはじめとする専門医で精密検査を受けられることをお勧めします。
河北新報掲載:2018年2月16日
一部改訂:2022年5月30日