漢方薬使い分けほぐす
肩凝りは日本人に特徴的な症状です。特に更年期(閉経前後のおよそ10年間、45~55歳ぐらい)の女性の47%に認められ、顔ののぼせ「ホットフラッシュ」よりも頻度は高いとされています。この話をすると「えっ!私は20代の頃からずっと悩んでいます」と言う人も多いようです。そこで、更年期女性と若年女性の肩凝りの違いについて、漢方治療のこつを交えて説明します。
首の付け根特徴
若年女性(45歳ぐらいまで)の肩凝りの場合、「首の付け根の凝り」が特徴です。これは両腕を支える肩甲骨をつり上げる僧帽筋と肩甲挙筋がこわばることで生じます。この時に頻繁に使用するのが葛根湯です。葛根湯は風邪薬で有名ですが、肩凝りの効能を持っていることは意外に知られていません。お湯で溶かして飲めば15~30分ほどで凝りがほぐれて肩が軽くなることに驚くと思います。肩凝りに伴う頭痛や眼精疲労にも有効なので、ぜひお試しいただきたいです。
ただし、葛根湯には交感神経系を緊張させる麻黄(まおう)という生薬が入っており、吐き気?胃もたれなどの胃腸症状がある人の場合、それらを悪化させる心配もありますので専門医や専門薬剤師にご相談ください。
一方、更年期女性の場合、首の付け根を飛び越え、凝りが肩甲骨(横方向)や背骨(縦方向)に広がるのが特徴です。患者さんは「肩が凝る」ではなく「背中が張る」と訴えますのですぐに分かります。
肩甲骨方向の凝りの場合は、四逆散(しぎゃくさん)をお薦めします。さらに背中の張りが胸の脇からおなかまで広がって便秘傾向がある場合は、大柴胡湯(だいさいことう)の方がより効果的です。
自分へのSOS
背骨方向の凝りの場合は、抑肝散(よくかんさん)をお薦めします。抑肝散は「抑圧された怒り」と言って、患者さん自身が仕事や対人関係で何か理不尽なことを我慢させられているときに体に現れる症状全般に使われます。いわば自分へのSOS信号です。抑肝散が効果を示す患者さんの場合、なぜか背骨に沿って症状が現れることに気付きます。そのため原因の分からない腰や首の痛みを併せて訴えることもあります。いずれも背中の張りの延長として抑肝散が解決してくれる可能性が高いです。
肩凝りに悩む女性へのメッセージをつづりましたが、これらの漢方薬は男性にも有効です。ぜひ、ご紹介した漢方薬を手に取ってもらい、健やかな毎日を送ってもらいたいと思います。
河北新報掲載:2021年3月26日