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放射線診断医が難治性高血圧症の新治療法を開発‐高瀬圭?東北大学病院放射線診断科教授に聞く◆ Vol.1
放射線診断医が難治性高血圧症の新治療法を開発‐高瀬圭?東北大学病院放射線診断科教授に聞く◆ Vol.1
TUHレポート 2023.01.05

放射線診断医が難治性高血圧症の新治療法を開発‐高瀬圭?東北大学病院放射線診断科教授に聞く◆ Vol.1

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※m3.com地域版『東北大学病院/医学部の現在』(2022年11月25日(金)配信)より転載

 全高血圧症の10%程度を占めると言われる「原発性アルドステロン症」。東北大学は、1956年に本疾患の本邦第1例目を報告したことから国内随一の診療実績があり、全国から多くの患者が集まる。2021年6月、本疾患に対する新たな治療法としてIVR(インターベンショナルラジオロジー)による「経皮的ラジオ波焼灼療法」が保険適用となった。医師主導治験により本治療法を開発した東北大学病院?放射線診断科の高瀬圭教授に、開発の経緯やIVRの未来について聞いた。(2022年9月20日インタビュー、計2回連載の1回目)

高瀬圭氏

――まず、原発性アルドステロン症について教えてください。

 原発性アルドステロン症(Primary Aldosteronism:PA)は、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌されることによって、高血圧や低カリウム血症を引き起こす疾患です。放置すると、普通の高血圧よりも高い確率で合併症が起こることが報告されており、その頻度は、脳梗塞は4倍、心筋梗塞は6倍、不整脈は12倍とも言われます。日本の高血圧患者は4000万人、その5%から10%に当たる200万人から400万人はPAによるものと推計されていますが、疾患の認知が十分でないことなどから、診断されずに慣例的な投薬治療が行われている患者さんが少なくありません。

――診断はどのように行われるのでしょうか。

 内分泌の専門医が血液検査と負荷試験で確定診断を行います。その後、手術を希望する場合には、腹部造影CTと副腎静脈サンプリングを行って、どちら側の副腎が原因となっているのか局在診断を行います。原則として、片側性であれば手術による副腎の摘出、もしくは今回保険収載された経皮的ラジオ波焼灼治療(RFA)の適応となります。両側性の場合や患者さんが手術を希望しない場合には内服による治療を選択します。

――経皮的ラジオ波焼灼治療(RFA)について教えてください。

 高周波電流を流せる細い針(ラジオ波焼灼針)を背中から刺してアルドステロンを過剰に分泌する腫瘍を焼き切る治療法です。手術のように副腎を切って摘出するのではなく、ホルモンを過剰に分泌している副腎腺腫に針をさし、針の先端からラジオ波にて病変を焼灼することでアルドステロンを正常化させて根治します。直径1.8ミリメートル の針を 1、2本刺す治療なので、傷痕はほとんど残らず、術後2~3日で退院可能です。

2本の針を背中から刺して腫瘍を焼灼

――開発した経緯を教えてください。

 もともとは副腎静脈サンプリング技術の向上と普及のための研究をしていました。先ほどお話ししたように、原発性アルドステロンの治療方針を決めるためには、局在診断が不可欠です。副腎の腫瘍というのは、CTで認識できたとしてもホルモンが出ているとは限らず、ホルモンを分泌しない「非機能性腺腫」が存在します。また、CTで見えないほど小さくてもホルモンを過剰に出している「微小腺腫」もあり、形態的な診断に加えて機能的な診断が必要となります。

 副腎静脈サンプリングでは、脚の付け根から静脈にカテーテルを入れて副腎の近くで採血をして、どちらの副腎からどのくらいアルドステロンが分泌されているのかを調べますが、特に右側は静脈の形状から慣れていないと難しく、実施できる施設も限定されます。2000年代前半に欧米から発表されていた成功率は70%で、正確な診断がつかないために手術ができない例や、不正確なままで手術が行われている例もありました。PAの治療成績は、サンプリングの成功率に左右されます。

――内分泌の病気でありながら、放射線科医の腕が鍵となるわけですね。

 特に2000年代に腹腔鏡手術が普及してからは、「小さな傷での手術をすれば薬を飲まなくて良くなる」と、手術を希望する患者さんが増え、副腎静脈サンプリングができる放射線科医の確保も課題となっていました。東北大学は、世界で最も多くこの検査による原発性アルドステロン症の診断を行っている施設の一つです。当院の内分泌診療はNewsweekのBest Hospitalsに選ばれており、海外在住の方が当院を受診して、内分泌性高血圧の診療を受けられる例もあります。内分泌性高血圧の疑われる患者さん、副腎静脈サンプリングの精密検査の必要な患者さん、低侵襲のラジオ波焼灼での治療を希望する患者さん等が全国から紹介されていました。試行錯誤の末、3D-CTで静脈を描出し、そのデータを基にサンプリングを行うことで成功率を100%近くまで向上させることに成功していました。

放射線部IVRチームによる治験治療シミュレーション

――なぜ検査法の開発から、治療法の開発に発展したのでしょうか。

 IVRを専門とする放射線科医として、やはり治療を目指したいな、と。原発性アルドステロン症は癌ではありませんから、検査の結果、手術適応となったとしても良性疾患に対して手術を行うことへの抵抗を感じる患者さんが少なくないのです。より体に優しい低侵襲な治療法が求められるなかで、IVRでできることがあるのではないかと考えました。

――いつ頃から研究を始めたのですか。

 サンプリングの研究は2000年頃からで、途中、2005年に留学の機会があり、後ろ髪を引かれる思いでベルリンに留学しました。2007年に帰国した頃には、サンプリングのニーズがさらに増加していました。転機となったのは2011年の東日本大震災で、復興支援のため、2011年度の3次補正予算で岩手県、宮城県、福島県に対して「革新的医療機器創出等促進臨時特例交付金」が交付され、各県で2015年度までの医療機器等開発計画を策定することになりました。宮城県では東北大学が開発事業者として医療機器等開発事業を行うこととなり、その一つにRFAの研究開発が採択されたのです。2012年から2016年にかけて動物実験、治験と進め、薬事申請を経て2021年6月1日に正式な治療として保険収載されるまで10年近くかかっています。

――経皮的ラジオ波焼灼療法の開発で最も苦労した点を教えてください。

 医師主導治験によって開発したという点です。2003年に薬事法が改正され、それまで企業主導でしか行えなかった治験を医師自らが立案して実施することが可能となりました。しかし、歴史が浅い上にその大半が薬物の治験で、医療機器は私が治験を開始した2013年時点で十数件のみしか行われていませんでした。医師主導治験は医師だけではなく、臨床研究コーディネーター(CRC)などの医療機関のスタッフや製薬企業?医療機器企業、開発業務支援機関(CRO)など多くの方々の努力と協力が不可欠です。

 臨床研究中核病院として国内有数の臨床研究支援体制を持つ東北大学病院でも、当時は医療機器治験の医師主導は初めてのことで、みんなが手探りでした。私自身、薬事法や治験の規則が面倒で難しく感じられて、チームのメンバーに随分反発してしまったこともあり、反省しています。また何よりも、協力してくださる患者さんなしには治験は進みません。有効性、安全性が十分には明らかでない治験治療に勇気を持って参加してくださる患者さんたちが、医療の進歩を支えているということを痛感しました。こういう患者さんたちに対して恥ずかしくないように、安全な治療計画を立て、誠実でわかりやすい同意説明文書を準備する必要があることを改めて感じています。

治験の様子

【取材?文=東北大学病院 溝部鈴(写真は病院提供)】

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高瀬 圭(たかせ けい)

1989年東北大学医学部医学科卒業。国立循環器病研究センター、石巻赤十字病院、フンボルト大学シャリテ病院、東北大学放射線診断科助教、准教授を経て2015年より同大大学院医学系研究科放射線診断学分野教授、東北大学病院放射線診断科科長に就任。

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