医療現場の課題を解決し、かつ企業のビジョンを達成し得るビジネスの創出を目指して、医療者と研究者、企業の方々と共に「東北大学病院ベッドサイドソリューションプログラム」に取り組むインターン生の2人。プログラムを通して、デザイン思考や会議の具体的な手法、プロセスだけでなく、恩師の姿勢からさまざまなことを学び、吸収しているようです。この経験を生かして思い描く将来のビジョンについても語ってもらいました。
——インターンシップを通してどのようなことを学んでいますか。
西尾)一つはビジネスの進め方で、こうやって商品開発が行われていくんだなというイメージがつかめました。もう一つは会議の進め方です。どうやったら会議がうまく進むかを勉強させていただいているなと思います。
まず会議の主催者、リードする人がその会議でどういうことをみんなで共有したいのかを明確にしておく。それを共有するために必要な資料などの事前準備。その会議が全体の中のどの地点にあって、どこまで進めるかを理解する。そして、会議の次に何をすべきかまで明確にする。ほかにも、発信しやすい雰囲気をつくるとか、駄目だったところを改善して次に生かすとか、本当に多くのことを学んでいます。
佐藤)私は大きく3つあります。まず、デザインそのもののプロセス。書籍で読んだり中川先生と話したりする中で出てくる単語の意味や手法は分かっていましたが、実際にそれがどういうふうに使われて進んでいくのかを目の当たりにしているので、それがまず一つ勉強になりました。
次が、ミーティングの仕方です。アルバイトの時もミーティングは何度もしましたが、基礎的な部分をたたき直されました。西尾さんも話していたように、どんな資料を用意し、司会者がどういう動きをするべきなのか。発言しやすい雰囲気もそうだと思いますし、その会議のゴールを明確にして、そこに向かって円滑に進めていく方法を学びました。
3つ目がマネジメントのスキルです。マネジャーには具体的に仕事が3つあると中川先生から教わりました。それは、クリエイティビティー、オペレーション、メンタリングです。
クリエイティビティーはゼロからイチにする部分をマネジャーが最初にやるということ。そのためには一貫したビジョンとリベラルアーツも含めた幅広い知識が必要で、さまざまな視点、視野、視座を組み合わせて多角的に物事を捉えなければいけません。オペレーションは実際の指示出し。誰がいつまでに何をやればいいのかを、ゴールから逆算してロードマップを描いていくことです。メンタリングはその通りメンタル面のケアですよね。ちゃんとやっているか、最近会議に出ていないけど大丈夫かとか、フォローを入れる。
こうしたことを通して、最終的に私は中川先生の姿勢そのものを学んでいるのだと考えています。
——なるほど。西尾さんは中川先生の姿勢からどんなことを感じますか。
西尾)中川先生はいつも会議が終わった後にインターン生に電話をくださるんです。ミーティングで分からなかったところなどを逐一フィードバックしてくださいます。インターンを育てようとする姿勢を見せてもらっていて、企業さんとのミーティングでも、個別のプログラムの実現のみならず企業さんを成長させたいという気概を感じます。
また、誰もが健康であるために医療はこうあるべきだよねという明確なビジョンをお持ちで、私利私欲ではなく、日本、世界の明るい医療のためにということに全てつながっているのがすてきだなと、尊敬しています。私たちも明確なビジョンを持つことが大事なんだなと痛感します。
佐藤)中川先生はいつも、「中川を目指すんじゃなくて中川を超えなきゃ駄目なんだよ」と言ってくださいます。そんなとてつもないことを言われても無理ですと返すんですが、「今あるギャップを言語化して、それを埋めるように行動していれば超えていけるよ」と。
日本の古い言葉で「守破離(しゅはり)」という言葉がありますよね。まず師匠の言うことを徹底的に、その思考まで全部まねして守る。そこに自分の考え方を加えて少し破ってみる。そして、最後には離れて我流になっていくと。まずは学んで、ギャップを日々言語化して埋めていくという学びの姿勢そのものを教わっています。
——最後に、将来のビジョンと、そのためにインターンシップでの経験をどう生かしていきたいかをお聞かせください。
西尾)ビジネスと関連させて日本の医療を明るくしたいという思いがあり、医師として働くことも考えつつ、それ以外の選択肢を増やしたいと思っているところです。医療費がどんどん上がっていったり、少子高齢化によって高齢者が増え、稼ぎ手が減っていったりという状況があり、私は日本の医療の持続可能性に少し不安を感じています。別の面ではAIの発達などもあって、自分が医師だけで生きていけるのかという思いもあります。
そこで、ビジネスの手法を取り入れて医療を効率化することで、医療費を削減したり、お金をうまく回して、もっとみんなが働きやすい、過ごしやすい環境にしたりできるんじゃないかと考えています。今、医療とビジネスの接点となる現場でその流れを体験できていますので、自分がリーダーシップを取ってビジネスを形作っていく時は、学んだ手法が生かせると思います。
あと、絵を描くのが好きだという話をしましたが、医学祭で脱出ゲームを作った時に、アミラーゼ、トリプシン、リパーゼという消化酵素をキャラクターにしてカードを作ったら子どもたちにすごく喜んでもらえたんですね。来場者の方に食べ物になってもらって、口から入った食べ物が体の中でどうやって消化されるのかを体験してもらう内容だったんですが、こうした特技も何か医療につなげられたらと思っています。
——佐藤さんはいかがでしょうか。
佐藤)私はまだ今後のビジョンが描けていないんです。インターンシップで学んだデザインとマネジメントを生かせればと思っているので、初期研修で医療をしっかり学んだ上で、最終的には大学に戻ってきて、中川先生のように産学連携に携わることができたらいいなと考えています。
ただ、デザインとマネジメントはどこでも生きるスキルなんじゃないかとも感じます。解くべき問題は何かを最初に考えて、そこからゴールに向かっていく。がむしゃらに試行を重ねるのではなく、これを解析して結果を出せば社会的なインパクトがあるだろうという題材が何かをまず考える。そういう手法は産学連携に限らず、おそらく研究でも医療でも生かせると思います。
そういう意味では道を決め切れていないのも悪いことではなく、東北大学の人脈も生かしていろいろな所に顔を出してみて、何が解くべき問題なのかをそれぞれのプロフェッショナルと議論しながら、プロの客観的な評価で自分がどの道に進むべきかを聞いてから決めるのでも遅くはないのかなと。寄り道しながら、もっともっといろんなものを見ていきたいですね。