日曜日の朝、お粥を炊く。
四半世紀ほど人生を共にしてきた小さな土鍋に、洗ったお米を入れ、しばし待つ。
お米に水分を吸わせたら、中火にかける。
蓋はしない。水の量は、お米1に対して、6くらい。ふつふつと湧いてきたら、一度だけ底にくっついているお米を鍋肌から優しく剥がすようにして杓文字でかき混ぜ、少し空間ができるようずらして蓋をし、あとは弱火で30分ほど炊く。
米粒たちは土鍋の中で舞い踊り、やがてほんのりと甘い香りを放つ。なんとも言えない、幸福の香りが広がる。
体が弱っているときも、心が弱っているときも、どっちのときも、お粥を食べるとじんわり、底の方から温かくなる。梅干しとか、昆布の煮たのとか、ちょっとしたおかずがあるだけでいい。
炊き立てのふわふわと湯気のたつお粥は、何にも勝るご馳走だ。お米の一粒一粒が、よく頑張りましたねぇ、と肩を叩くように励ましてくれる。
ちょっと元気がないかも、というとき、わたしは決まってお粥を炊いて食べる。それがわたしの、医食同源。お粥を食べて、軌道修正するのである。
小川 糸
小説家。山形県出身。デビュー作『食堂かたつむり』(2008年)以来30冊以上の本を出版。作品は英語、韓国語、中国語、フランス語などさまざまな言語に翻訳され、出版されている。近著に、『ライオンのおやつ』(ポプラ社)、『とわの庭』(新潮社)など。
※東北大学病院広報誌「hesso」32号(2021年11月30日発行)より転載