今年2月、放射線治療科には患者さん自身がタブレットPCを使って回答する「スマート問診システム」が導入された。これまで紙で行われてきた問診をデジタル化することで、患者さんの負担軽減や医療者の業務効率化を図る。開発の中心を担ったのは2020年に東北大学病院が院内に新たに設置した「AI Lab」。開発までの経緯をAI Lab植田ディレクターと放射線治療科神宮啓一科長に聞いた。
人の価値観に合うようにテクノロジーをデザイン
――まずは、AI Labについて教えてください。
植田)AI Lab(AIラボ)は東北大学病院が推進するスマートホスピタルプロジェクトの一環として2020年1月に新設された新しい部署です。医療者が本来業務に専念できるように業務を効率化し、職員にとっても患者さんにとっても居心地のよいスマートな病院をつくろう、という冨永悌二病院長のスマートホスピタル構想によるものです。
当初は、機械化?デジタル化を駆使して業務を効率化していく、という考え方でしたが、プロジェクトを開始するにあたり関係者でデジタル先進国のフィンランドにあるオウル大学に視察に行ったとき、その考え方が大きく変わりました。機会や技術を大量に投入すること が大切なのではなく、現場では何が課題なのかを見つけるのが先で、その後にAIなどのIT技術や機械がそれをどう手助けができるのか、というように考え方の順番がシフトしたんです。これは、病院で働く人たちが自分の働き方や生き方をどのように考えていくのか、という意識改革にもつながります。AI というと何かプログラムを作るところと思われがちですが、人が持っている価値観にテクノロジーがうまく機能するようにデザインしていくことがAI Laboの仕事です。
――実際にどのように課題を見つけていくのでしょうか。
植田)院内で「何か困っていることはありませんか?」と呼びかけ、課題やニーズをピックアップして、ソフトウェアやAIで解決ができるものを一つ一つ組み上げていくという流れです。スマート問診システムも神宮先生からお声がけいただきました。
神宮)毎月の会議で植田先生から、AI Labが立ち上がったという紹介と課題やニーズ、シーズを探しています、というお話をいただきました。放射線治療を受けている患者は毎日問診をとる必要があり、対象者は1日に150人にものぼるので、看護師さんの手間がものすごくかかります。看護師の本来業務は他にもありますし、問診を取るレベルが人によって異なったり、聞くべきことが聞けず、患者さんの変化が分かりにくい、という課題もありました。それを解決できないか、とご相談したのです。
植田)ソフトウェアの会社に相談するのが一般的かと思いますが、ヒアリングした内容だけで作り込みが始まるため、開発側が医療のことを分かっていないと、大変な労力が必要になるんです。特に今回の問診システムのように、電子カルテと接続するためにはカルテの知識も必要です。医療者と開発者がお互いに理解しあうようになるまでに、時間もお金もかかるうえに、実際にソフトウェアができてみたら、全然違うものが出てた、ということも多い。私たち医師は、医療者目線でテクノロジーを見ることができるうえに、テクノロジー目線からも医療を見ることができます。これが他にはない強みです。
今回の問診システムは、放射線治療科のニーズとAI Laboができること、それから、電子カルテという病院にもともとある環境を活用できたという点で、労力もコストもベストマッチにうまくいった事例だと考えています。
写真(後列左から)放射線治療科 武田一也 / メディカルITセンター 部長 中山雅晴 / メディカルITセンター 佐々木恵利奈
(前列左から)放射線治療科 科長 神宮啓一 / 病院長特別補佐?AI Labディレクター 植田琢也 / 脳神経外科?AI Lab 園部真也
取材日:2020年12月23日